寝太郎むかし

 むかし、村に寝太郎いだったど。寝太郎は寝てばりいたげんど、頭はええがっ たど。
 家さ猫一匹飼ってだけど。正月になっても、どんずやりだから、餅も搗かねがっ たど。寝太郎は考えて猫の毛さ赤い紅 (べに) つけで、隣の金持の家の猫くぐりさ、ちょ ろいっと入ってきたど。そしたれば、猫は腹減ってるもんだから、ノシ餅しった のに、ありったけなめだど。そしたら餅はみな真赤になってしまったど。
 そして次の日起されてみたら、餅が真赤になってしまったもんだから、金持の 家では畑さ餅をみなぶんなげてしまったど。そしたらその畑ぁ寝太郎家 (え) の田地 だったど。そして寝太郎は起きてきてみたところは、餅、赤いくなったな、いっ ぱいあったもんだから、
「ああ、オレの計略はうまく行ったな、猫さ紅つけてやったもんだから、猫ぁあ りったけ腹減 (へ) らかして、なめたに違いない」て云うて、それを寝太郎は畑からもっ て来て食ったど。
 それを食ってあと、また考えて、正月の十五日に、地蔵さまの杉の木の上さ、 提灯さ〈天照皇大神宮〉て書いて、灯 (あかし) をつけておいだど。そして寝太郎は木のテッ ペンさ登って、隣の金持の佐左衛門家 (え) に向って、
「佐左衛門、佐左衛門」て云うたど。
 したれば、佐左衛門はびっくりして、起きてみたら、地蔵さまの杉の木のテッ ペンさ〈天照皇大神宮〉て書いた提灯があったので、手を合せて拝んだところが、
「ここの土地には寝太郎ていう者がおるそうだ。今は食うにも食んなくて困って いるもんだから、酒と魚、餅、たきものを明日の朝げ、いっぱい持って行かない ど、お前の家は焼けてしまうぞ」て云うたど。
 そうしっど、佐左衛門は本気して、次の朝げに、奉公人にみんな持たせて、焼 けるにはましたもんだて、寝太郎どさくれて来たっけど。トービント。
(貝生 工藤六兵衛)
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